アクアチント

アクアチントとは、凹版において金属板を腐食させて版板を作る技法のことです。「線」ではなく「面」で濃淡をつけ、トーンの変化を繊細に表現できるのが特徴。17世紀にオランダで考案され、18世紀にフランスで確立されました。当時水彩画が発展していたイギリスは陰影を表現する革新的な技術としてアクアチントを受け入れ、風景画を複製するためにも使いました。

アクアチントで製版するときは、松脂を使うのが一般的です。金属板の腐蝕させたくない部分に防蝕材を塗った後、粉末状にすりつぶしてガーゼなどの布に包んだ松脂を散布していきます。松脂の散布が終わったら板の裏側から全体をコンロ等で熱し、松脂を金属板に密着させます。最後に金属板を腐蝕液に浸し、腐蝕液・松脂・防蝕材を洗い流すと版板の完成です。

腐蝕液に浸す時間が長ければ長いほど、印刷濃度は濃くなります。1枚の版板で異なる濃淡を作りたいときは、これ以上印刷濃度を濃くしたくない部分に防蝕材を塗り、もう一度板を腐蝕液に浸します。防蝕材の塗布と、腐食剤への浸漬を繰り返して繊細な濃淡を作っていくのです。

アクアチント作品の代表例としては、ゴヤの『Por que fue sensible』やメアリー・カサットの『沐浴する女性』などが挙げられます。『沐浴する女性』は、ドライポイントの技法を併用した作品です。

日本でも浜田知明、池田満寿夫、長谷川潔などがアクアチントの作品を残しています。なかにはエッチングを組み合わせた作品もあり、アクアチントは幅広い表現技法に対応できる技術と言えます。