拓刷り(たくずり)とは、凸版技法の1つです。版となる凹凸のあるものに紙を乗せ、その上からインクや鉛筆といった描画材を塗り、版の凸部の文様を写し取ります。一般的な版画は版にインクを付けて紙に転写するため、紙に写る図柄が反転するのに対し、拓刷りは版に押し当てた紙の上から着色するため、版の図柄をそのまま写し取れるのが特徴です。
拓刷りの歴史は古く、石碑や碑文の文字を転写したものや、木材や金属の凸部を写し取ったものなどが残っています。転写したものを本にまとめた「拓本」も伝わっており、記録のために使われていたことを伺うことが可能です。現在でも、考古学研究で碑文・土器・瓦などの文字や文様を写し取るときをはじめ、拓刷りの技術は広く使われています。
拓刷りには、乾拓(乾式)と湿拓(湿式)の2種類の方法があります。乾拓は乾いた紙を版となるものに押し当て、凹凸を写し取る方法です。別名「フロッタージュ」とも呼ばれています。特別な道具がなくても手軽に試せるため、幼稚園・保育園や小学校の図画工作の時間にもよく取り入れられています。
湿拓では、あらかじめ霧吹きなどで湿らせた紙を、版となる物の上に乗せて凹凸を転写します。厚みのある紙だと対象物に密着させるのが難しいため、薄手の和紙を使うのが一般的です。凹凸を転写するときは、密着させた紙の上にインクを染み込ませたタンポで色を付けていきます。タンポを押し当てる力が強かったり、紙に染み込ませた水分量が多かったりすると、紙がすぐに破れてしまうため、湿拓は加減が重要です。