ナスト

ナストとは、1700年代後半から1800年代前半まで活動していたフランスの磁器工房のことです。18世紀末には「パリの四大窯」のひとつに数えられていました。設立や沿革に関する資料はあまり残っておらず、謎な部分も多い工房です。カップ&ソーサーといった食器類だけでなく、フィルターコーヒーメーカーの製造にも携わりました。

ナストの製品の特徴は、絵画のような美しい絵をあしらっていることと、華やかな金彩を施していることです。1783年にナストを創業したジャン・エルマン・ナストは、ルイ・ピエール・シルトをはじめとした優秀な画家を採用し、女性や風景などを描いた製品を製造しました。

また金彩の新しい技術を開発したり、クロム元素を発見したルイ=ニコラ・ヴォークランとも協力したりして、金彩を贅沢に施した製品を製造しました。美しい絵画を思わせるデザインと華やかな金彩が組み合わさり、美術館や宮殿の風景の一部を切り取ったような意匠なのがナストの磁器の特徴です。ルイ=ニコラ・ヴォークランとは「クロムグリーン」という緑色も創り出し、さらに表現の幅を広げました。

ナストの工房はもともとパリのポパンクール通りにありましたが、1789年に同じくパリのアマンディエ通りに移転しました。1806年にはアメリカのホワイトハウスに製品を収め、1819年から1834年の間にパリ産業博覧会で金賞を4回受賞するなど、数多くの功績を残します。しかしながら経営状況の悪化のため1835年に工房を閉鎖することになり、およそ50年の歴史に幕を閉じました。