ナラティヴ・アート

ナラティヴ・アートとは、過去の出来事・事件の一場面や、今後発生する可能性がある事象を緻密に描写した作品のことです。古代より絵画は聖書の内容や歴史上の出来事などを、視覚的に人々へ分かりやすく伝えるための手段でした。ナラティヴ・アートもその一種で、19世紀までは聖書・神話ベースに、物語的な要素を加えた作品が多く登場しました。しかしこの流れは、19世紀後半に変化を見せることになります。

19世紀後半以降、ギュスターヴ・クールベやエドゥアール・マネをはじめとした画家が歴史・聖書・神話などをモチーフに作品を制作するのを嫌がり、代わりに生活や風俗の様子を描くことが主流になったのです。抽象絵画が盛り上がるのに伴い、ナラティヴ・アートは「ナラティヴ(物語風の・文学的な)」と軽蔑したような目で見られるようになりました。ところが1960年代になると、ポップ・アートやニュー・レアリスムなど、ナラティヴ・アートの傾向が伺える作品が登場。近年では、ナラティヴ・アートは精神医学においても注目されています。

ナラティヴ・アートの代表作として挙げられるのは、ルーベンスの『ディアナとカリスト』、ウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』です。ほかにも、紀元前に作られた彫刻作品『ラオコーンとその息子たち』や、教会の壁面や天井などに描かれているキリストの生涯、日本で平安時代末期に制作された『信貴山縁起絵巻(しんぎさんえんぎえまき)』もナラティヴ・アートに分類できます。