ベネチアングラス

ベネチアングラスとは、イタリア北部の街であるヴェネツィアで生産しているガラス工芸品です。素材は鉛を含んでいないソーダ石灰を使用しており、コバルトやマンガンなどの鉱物を混ぜることで多彩な色彩を表現することが可能です。ソーダ石灰に混ぜる鉱物によってガラスの硬さも変化し、特に赤色のものは硬度が高いとされています。

作品に施される装飾の繊細さは、「軽業師の妙技」と呼ばれるほど高度なものです。空中でグラスを吹くことで極薄の作品に仕上げるほか、細く引き伸ばしたグラスで動植物を表現することもあります。時たま完成した作品にピンセットやハサミの痕が残っているケースが見られますが、これは制作過程で付いた本物のベネチアングラスの証として捉えることが多いです。

ベネチアングラスの発祥には諸説がありますが、7~8世紀ごろのガラス工房の遺跡が見つかったり、10世紀末には文献にガラス産業に関する事柄が登場したりしています。13世紀には技術を他国から守るため、グラス職人たちを全員ムラーノ島に移住させました。15~16世紀のルネサンス期に繁栄の頂点を迎え、ベルサイユ宮殿の「鏡の間」の装飾にはムラーノ島の職人12人が関わったと伝わっています。

ベネチアングラスの数少ない欠点の一つは、産地の特定が難しいところです。ヴェネツィアはグラスを作るための原材料を産出できない土地柄のため、他国から素材を入手していました。ベネチアングラスと同様の材料を使用している中国、チェコ、ルーマニアには類似した作品が多く、真贋の判定には専門家の目が必要です。