メゾチント

メゾチントとは、エッチングやエングレーピングといった凹版技法の1つです。描画をする前にロッカー(ベルソー)という道具を使い、版板の表面をささくれ立たせるのが特徴。ロッカーによるささくれは縦・横・斜めから細かく入れるため、版板はサンドペーパーのような形状になります。ささくれが密に立っている部分ほど、インクを濃く印刷することが可能です。灰色や白で絵に濃淡をつけたい場合は、ささくれの部分を必要に応じて削り取っていきます。ささくれの立たせ方を細かく調整できるため、繊細な色の濃淡を表現することが可能です。

メゾチントが考案されたのは、17世紀前半。オランダ人のルートヴィッヒ・フォン・ジーゲンが開発し、当初は書籍の挿絵や絵画の複製に使われていました。しかしメゾチントの版板に付けるささくれは、印刷する回数を重ねれば重ねるほど削れていき、色の濃淡が分かりにくくなってしまうのが難点。同じ版板を使って印刷できる枚数が限られているため、大量生産にはあまり向いていませんでした。

後世になり、長谷川潔や浜口陽三によってメゾチントの技術は大きく発展します。長谷川潔は実用的な技術として扱われていたメゾチントを、芸術作品を作るための技法として取り入れました。代表作は、『アレキサンドル三世橋とフランスの飛行船』や『時、静物画』などです。浜口陽三は、黒以外の複数の色を使う「カラーメゾチント」を開発。ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションが所蔵している『赤い皿』は、代表作の1つです。