ルポルタージュ絵画

ルポルタージュ絵画とは、社会的な事件をテーマにした絵画作品のことです。特に、戦後間もない日本で制作された作品のことを指します。ルポルタージュ絵画では、庶民の生活や社会全体に関する事件を「事実」ととらえ、「記録」や鑑賞者への「報告」を主な目的としていました。あるがままを絵画にした自然主義や社会主義的リアリズムとは異なる視点から創作活動を行い、文学におけるルポルタージュ(記録文学)を絵に落とし込んだ作品と言えます。

ルポルタージュ絵画が生まれた背景には、戦後間もない日本国内の混乱、アメリカとソ連の冷戦の悪化や朝鮮戦争の勃発といった世界的な不安定さなどがあると考えられています。国内で自由と平和を訴える活動が盛んになったことを受け、画家たちも闘争や反対運動の現場まで赴き、体験や取材をもとに作品を制作しました。臨場感のあるルポルタージュ絵画を発表することで、大衆と事件との距離感を縮め、新しいリアリズムを獲得しようとしたのです。

ルポルタージュ絵画の代表的な作家は、桂川寛や池田龍雄など。桂川寛の『小河内村』は、奥多摩地域へのダム建設に反対する運動をテーマに、実際に工作隊に潜入したうえで制作されました。池田龍雄の『網元』は、石川県で起きた米軍の射撃場への反対運動「内灘闘争」を題材にしています。作品を発表した当時は人々に強烈なインパクトを残しつつも評価があまり残らなかったルポルタージュ絵画ですが、近年注目が集まりつつあります。ルポルタージュ絵画は、作品と制作背景から作家の意志や時代の流れを考察できる興味深い美術ジャンルです。