奈良三彩

奈良三彩とは、奈良時代から平安時代前期の間に作られた陶器のことです。緑釉・透明(白)釉・褐釉の3色で彩色されることから、「三彩」の名称が付いています。製作されていた当時は、祭事・仏事といった重要な行事で使用する道具や、宝物・贅沢品など特別で貴重な陶器として扱われていたと考えられています。

奈良三彩は、中国で生産される唐三彩をモデルに生み出されました。飛鳥時代に日本に伝来し、奈良時代になると日本国内での生産が開始。今日は近畿圏を中心に各地の遺跡から出土しており、奈良・平安時代の重要な宝物を保管している正倉院には、57品の奈良三彩が伝わっています。唐三彩はお墓への埋葬のため生産されていたのに対し、奈良三彩は実用性を重視しているのが特徴です。

ほかにも奈良三彩は唐三彩の器の形をそのまま真似したのではなく、金属器を模倣したものが多いのも特色。特に、胴が風船のようにふっくらと膨らんだ薬壺形のものがよく出土する傾向にあります。また、煮炊き・食事・貯蔵用具などとして使われていた土師器や須恵器の形を想起させる奈良三彩も出土しています。

奈良三彩は、二度焼き焼成で製作されます。不純物を取り除いた粘土で器の形を作って乾燥・素焼きした後、釉薬を塗ってもう一度焼き上げます。製作の手間がかかるため、奈良三彩の生産量・現存数は少量です。生産地に関しては窯の遺構が見つからず、製作していた場所も定かではありません。奈良三彩はさまざまな謎を残しつつ、深みのある釉薬の発色とどっしりとした器形で、今もなお人々を魅了しています。