空気遠近法

空気遠近法とは、空間表現技法の1種です。特徴は、大気が持つ性質を活かして作品を制作しているところ。遠くにある物ほど青みがかったり霞んだりしたように見えるほか、輪郭線が曖昧になる性質を、作品に落とし込みます。画面に施す彩色を、大気の性質や色に近づけることで、遠近感を表現するのです。例えば山々を描く際は、手前を濃い緑色にして、奥へ行くほど色を薄く青みがかったようにして、最終的には大気へと溶け込ませます。

空気遠近法の研究を熱心に行ったのは、ルネサンス期のイタリアで活動したレオナルド・ダ・ヴィンチです。当時は既に、線の収束や遠くのものを小さく見せることで遠近感を表現する、「線遠近法」が確立していました。しかし、線遠近法だけでは屋外の景色を描くのに不十分だと考えたレオナルド・ダ・ヴィンチは、彩色によって遠近感を表現することに。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『モナ・リザ』の背景にも、空気遠近法が使われていると考えられます。

空気遠近法を確立したのはレオナルド・ダ・ヴィンチでしたが、それよりも前に、マザッチョが空気遠近法を自身の作品に取り入れていました。マザッチョは1401年のルネサンス期のイタリアで生まれ、27歳の若さで世を去った画家です。1420年代にマザッチョが制作した『貢の銭』では、背景の山々の色を、奥へ向かって濃い緑から薄い青へと変化させ、遠近感を表現しています。一番遠い左端の部分は輪郭線もぼやけており、奥行きと立体感を感じられる作品です。