カーシャーン

カーシャーンとは、イランの中央部に位置する都市のことです。かつてカーシャーンを治めていたセルジューク朝の時代には、ペルシアにおける陶器の一大産地として賑わいを見せ、品質の良い陶器やタイルの生産地として知られていました。特にモスク内部を装飾するタイルを生産し、西アジアを中心に製品を輸出していました。

「ラスター釉」という真珠のような光沢をもたらす釉薬を使用した陶器を生産しており、カーシャーンで作ったものはイスラム圏から広く人気を集めるようになります。しかしセルジューク朝が滅びた後、1224年にカーシャーンはモンゴル軍によって破壊されました。1258年にモンゴル軍がバグダードも征服したとき、カーシャーンで作られた陶器も保存され、現在まで伝わっていると考えられています。

カーシャーンでは独自の文様が登場しており、人物が対話する様子を描いたものや、象をモチーフにしたものが多い傾向にあります。また、鳥や文字をあしらった文様がよく見られるのも特徴のひとつです。エナメルのような光沢のある上絵付け「ミナイ手」や文様を黒く浮き出させる技法など、さまざまな技術がカーシャーンで生まれました。

カーシャーンで生産された陶器は日本にも伝わっており、九州国立博物館が所蔵している「青釉四耳鉢(せいゆうしじはち)」はその代表例です。取っ手を4つ付けたデザインが特徴で、コバルトブルーの陶器に黒い絵の具で幾何学模様や蔓草文を描いています。