サンクルー磁器

サンクルー磁器とは、パリ中心部から西へ10kmほど離れた場所に位置する、サンクルーという街で生産された磁器のことです。「フリット質」というガラス粉末を多く含む顔料を低温で焼き上げる、軟質磁器に分類されます。1693年頃から、中国で生産された磁器とよく似た磁器を生産していたと考えられています。

1702年に、ルイ13世の次男であるオルレアン公フィリップ1世は、サンクルー磁器を生産していたピエール・シカノーの一家に特許状を与えます。当時はヨーロッパ全域で中国製磁器の模倣を試みる動きが活発で、サンクルーでは中国の磁器に近いものを開発していました。1730年以降はさまざまな色を用いた磁器が生産され、日本の有田焼も参考にしていました。

しかし1752年以降は、パリ東部のヴァンセンヌ磁器が複数の色を用いた磁器の装飾の独占権を獲得し、サンクルー磁器を含む他の工房は、制作範囲の縮小を余儀なくされました。その後はシャンティイやセーブルといった他の磁器工場が台頭し、サンクルー磁器を生産していた工房は廃業。サンクルー磁器の生産は、1766年まで続いたとされています。

サンクルー磁器の特徴は、純白ではなく、磁器の色がアイボリーだったり、少し黄色が混ざったりしているところです。ヨーロッパで磁器生産の技法が確立していなかった当時は、最高級品に分類されました。厚みがあって重厚感のある雰囲気や、東アジアの文様を積極的に取り入れているのも魅力です。サンクルー磁器は、ヨーロッパの磁器生産の起源を伺える磁器と言えるでしょう。