スフマート

スフマートとは、輪郭線を用いずに対象物の立体感や形状を表現する技法のことです。イタリア語で「ぼかした」という意味の「fumo(フモ)」が語源で、微妙に色が異なる絵の具を何層にも塗り重ねて作品を描いていきます。

スフマートの特徴の1つは、制作に時間を要するところ。絵の具を塗って、乾いたら濃度を少し変えて再び塗る作業を何度も繰り返して自然なグラデーションを作っていくため、作品の大きさが大きくなるほど完成までには時間が掛かります。

スフマートの技法を創始したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとした15~16世紀の画家たちだとされています。レオナルド・ダ・ヴィンチは、線では描けない事物を描写するのが絵画の本質だと考えていたため、スフマートは彼の意志を表現するのにうってつけの描画法だったと言えるでしょう。代表作の『モナ・リザ』もスフマートを用いて描かれた作品で、特に目・唇・顎はリアルな質感と立体感が表現されています。

レオナルド・ダ・ヴィンチがスフマートを創始した後は、イタリアのコレッジョやアンドレア・デル・サルトが受け継いでいきました。コレッジョは当初線を用いた厳格な作品を描いていましたが、次第にスフマートを取り入れた柔らかい雰囲気の作品を制作するようになります。アンドレア・デル・サルトは代表作の『ハルピュイアの聖母』からもうかがえるよう、三角形の構図と鮮やかな彩色、スフマートの技法を織り交ぜた独自の作風を確立しました。