チェルシー磁器工房

チェルシー磁器工房とは、イギリスの首都ロンドンのチェルシーという地区で創業した磁器工房のことです。創業年は1743年から1745年頃とされており、銀細工師のニコラス・スプリモントが支配人でした。資料がほとんど残っていないため詳しい沿革を知るのは困難ですが、イギリスの磁器生産の先駆け的な存在として知られています。

チェルシー磁器工房が創業されたのは、ドイツやフランスから磁器生産の技術が伝わり、イングランドでもさまざまな工房が開かれた時期でした。チェルシー磁器工房の製品は品質が良く、主に貴族階級向けの磁器を生産していました。1750年頃まではマイセンの製品や銀細工、1760年頃からはフランスのセーブル焼の影響を受けた磁器がよく見られます。

チェルシー磁器工房の歴史は、大きく4つに分けられます。創業当初から1749年頃までは中国の磁器を意識したものや銀食器の影響を受けたものなどが生産されています。1749年から1752年の製品はイタリアの遺跡や港の風景、イソップ物語をテーマにしたものが多く、マイセンの影響を受けた磁器を生産していました。

1752年から1756年は「赤い錨の時代」と呼ばれており、日本の有田焼で確立した色絵磁器「柿右衛門様式」や、マイセン、シャンティイといったヨーロッパの名窯の要素を取り入れ、草花を写実的に描いた製品が登場します。1756年以降はフランスのセーブルの影響を強く受け、彩り豊かで金箔を使用した華やかな磁器を生産しました。1769年に経営不振によりロイヤルクラウンダービーに買い取られ、1784年に閉窯しました。