テンペラとは、卵や樹脂などを水で溶き、粉末状の顔料を練り合わせた絵の具、およびテンペラの絵の具を使用した絵画作品のことです。現在は卵の代わりにニカワやカゼインを使う場合もあります。卵テンペラの作り方は時代や地域によって異なるため、一概には言い切れませんが、ヨーロッパでは主に卵黄を使ったテンペラが普及していました。
テンペラ画の特徴は、画面全体の色調が明るく、平面的な表現を得意としているところ。速乾性と耐久性にも優れており、数百年以上前に描かれた作品も、美しい色彩をほとんど当時のまま残しています。テンペラ画の代表作としては、1310~1311年頃にジョットが制作した『荘厳の聖母』や、1485年頃にボッティチェリが描いた『ヴィーナスの誕生』が挙げられます。テンペラ画で使用する絵の具は粘度が比較的高いため、近くで見ると筆の跡を確認することが可能です。
絵の具が固まった後はひび割れや剝落が発生しにくいのがテンペラ画の特色ですが、絵の具の性質上、壁画にはあまり向いていません。レオナルド・ダ・ヴィンチは新しい技法を生み出すため様々なことに挑戦し、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院に『最後の晩餐』をテンペラ画で描きましたが、劣化がひどく原作を維持するのが難しい状況に陥っています。
1977年から1999年にかけて『最後の晩餐』の大規模な修復を実施し、レオナルド・ダ・ヴィンチ以降の修復で使われた絵の具を全て除去しました。その結果オリジナルの部分が全く残っておらず、下の壁面が露出した箇所もあり、テンペラは壁画には適していないことが伺えます。