フイエとは、パリのラ・ペ通り18番地にあった磁器の絵付け工房のことです。設立された時期は定かではありませんが、18世紀末から19世紀初頭の間で既に活動を開始していたと考えられています。ブルボン公爵家をはじめとした複数の有力なパトロンを背景に、業界の指導者的な役割を担っていたとされています。
フイエを設立したのは、ジャン・ピエール・フイエという人物です。美術学校で絵付けを学んだ後、絵付け工房を営んでいたダルト兄弟のもとで修業した後、独立しました。主に帝政様式から復古王政期の絵付けを行い、フランス内外の王侯貴族からの依頼を受注していました。
1834年に同業他社のボワイエと提携し、ジャン・ピエール・フイエの死後はボワイエが事業を受け継いだと考えられています。ボワイエはパリ万博でメダルを受賞するなどの成果をあげますが、機械化の流れに逆らえず徐々に品質が低下し、19世紀後半にはポール・ブロ&エベールによって継承されました。
フイエの工房名は、ボワイエと提携した後も、ジャン・ピエール・フイエの甥の工房に引き継がれます。セーブル窯を模した磁器を主に生産しており、「F」という刻印を施しました。甥の工房は、1846年に途絶えたとされています。
フイエの製品のなかでも特に品質が良いとされるのが、19世紀前半に作られたものです。セーブル窯やダルテ・ブラザーズから仕入れた無彩色白磁を使用しており、地肌の美しさや彩色の鮮やかさを感じられます。品質水準は、王立製陶所が置かれていたセーブル窯と遜色ないものでした。