イスラーム陶器とは、現在のイラン・トルコ・エジプトといったイスラーム文化圏で生産されている陶器のことです。8世紀ごろはサーサーン朝や東ローマ帝国など、周辺地域の技術や装飾が用いられていました。9世紀から10世紀にかけては素焼きの陶器や、型押しと施釉を施した陶器が作られたと考えられています。
10世紀になると「スリップ」という粘土を使った装飾が発展します。スリップは白・黒・赤などのカラフルな酸化物を混ぜて作った粘土で、陶器に複数の色が施されるようになります。スリップにモチーフを刻んだり、あえてスリップを取り除いて素地の色を見せたりと、さまざまな表現技法が用いられました。
13世紀末から14世紀にかけては、ラピスラズリをはじめとした青い釉薬を使用した「ラージュヴァルディーナ」や、陶器を用いたモザイク装飾などが登場。その後オスマン帝国でイズニク陶器が登場し、初期は青、次第に緑やピンクなどで釉薬の下に装飾を施すものが見られるようになりました。16世紀から18世紀半ばに存在したサファヴィー朝では、中国の磁器の再現が試みられたとも伝わっています。
イスラーム陶器は工房単位で生産されていたため、陶工個人の名前は伝わらず、ほとんどの作品には署名がされていません。生産されていた陶器の種類は、庶民が使用するようなものから、宮廷用や輸出用の高級品まで多岐に渡ります。時代や地域によってさまざまな特色があり、個性豊かなところがイスラーム陶器の魅力のひとつです。