エッチング

エッチングとは、銅板を腐食させて線を描き、版板とする技法のことです。初めに防食材で銅板をコーティングした後、ニードルで表面を引っ掻きながら線を描き、銅を腐食させる液体に浸して版板を作ります。ニードルで引っ掻いた部分は腐食して凹むため、そこにインクを流し込み、上から紙や布を被せて版画を刷っていくのです。線の太さは、腐食させる時間の長さで調節します。細い線を描きたい部分は、途中で腐食をやめさせるために「黒ニス」「止めニス」を塗って防食します。

エッチングの歴史は1500年ごろまで遡り、アウクスブルク(現在のドイツの一部)のダニエル・ホッファーという芸術家が、鉄板を用いたのが始まりです。銅板を用いてエッチングの技法を使ったのはネーデルラントのルーカス・ファン・レイデンが始めとされ、16世紀にはヨーロッパ全土へ広がりました。日本にも南蛮貿易を通じて伝来し、1783年には絵師で蘭学者でもある司馬江漢がエッチングの作品を制作しています。

現在はリフトグランドエッチングやソフトグランドエッチングなどのバリエーションが増えており、多彩な作品が生み出されています。リフトグランドエッチングは砂糖とアラビアゴムを混ぜた液体で銅板の上に直接絵を描き、防食剤を引いた後ぬるま湯につけて腐食させる方法。ソフトグランドエッチングは防食剤に油脂分を加えたものを銅板に引き、その上に乗せた紙にクレヨンや鉛筆で描画して腐食させる方法です。筆圧の強弱の調節がしやすく、対象物の形や質感をリアルに表現できます。