エングレーヴィング

エングレーヴィングとは、「ビュラン」という道具を使う凹版技法です。ビュランは、先端が鋭くとがった金属に、木製の持ち手が付いた彫刻刀のような道具です。エングレーヴィングで版画を制作する際は、初めにビュランで金属板を削り、線で絵を描いていきます。金属板を削り終わったら、線の両側にできる金属のまくれをスクレーパーで削り取ります。最後に金属板全体にインクを塗り、不要な部分は拭き取ってから紙を乗せ、印刷すると作品の完成です。

エングレーヴィングは凹版技法のなかでは特に歴史が古く、15世紀のヨーロッパで生まれました。武具や貴金属を装飾する金細工職人が、装飾の絵柄を記録するために金属板を削り、インクを塗って印刷したのが始まりだと考えられています。

ビュランを使って金属板に描画するには高度な技術が求められ、素材である金属板は高価であったため、当初は王侯貴族の鑑賞用やコレクション用として制作されていました。19世紀の初めに頑丈で大量印刷ができるスティール・エングレーヴィングが登場するまで、エングレーヴィングの技法は印刷業界の第一線で使用されていました。

エングレーヴィングの代表的な作家としては、ドイツのルネサンス期に活動したアルブレヒト・ビューラーが挙げられます。金銀細工師だった父から、若いころに金細工と描画の基礎を学びました。エングレーヴィングによる版画の制作を始めるとヨーロッパの芸術界で有名になり、『アダムとイブ』や『書斎の聖ヒエロニムス デューラー』といった名作も残しました。