ニヨン窯とは、スイスに存在した磁器窯のことです。スイス西部に位置するニヨンという街を拠点としていました。地元の有力者からのバックアップを受けながら活動し、主にテーブルウェアを生産していました。白地に金彩を施したものや、田園風景を描いたものなど、芸術作品のような美しい絵付けが魅力です。
ニヨン窯が誕生したのは、1781年です。ドイツ出身のフェルディナンド・ミュラーとヤコブ・ドルツが共同で設立しました。当時スイス国内で磁器を生産していたのはチューリヒ近郊エリアに限られていたため、ニヨンに磁器づくりが根付いたのは画期的なことだったと考えられています。ニヨンの貴族をはじめ上流階級からの支持を集めていましたが、フランス革命の影響によって経営状況が悪化し、1813年に閉窯することになりました。
設立当初のニヨン窯では華やかな磁器が置く生産されていましたが、次第に小花を散らしたものや小枝を描いたものなど、素朴なデザインの製品も増えていきました。フランスのパリやセーブルでの流行が、ニヨン窯にも伝わったと考えられます。ほかにもヤグルマギクやバラなど、かわいらしい花を描いたテーブルウェアも登場しました。
ニヨン窯の製品に使われるバックスタンプのモチーフは、魚です。魚のデザインは製品によって異なり、胴体が細長くなっているものや、頭が丸くなっているものなどとても個性豊かです。頭の向きは統一されておらず、右向きもあれば左向きもあります。バックスタンプを見るのも楽しみのひとつとして、現在もコレクターからの人気を集めている磁器窯です。