ハッチング

ハッチングとは、斜線や平行線を何本も引くこと絵を描く表現技法のことです。絵画や版画の制作だけでなく、図案の作成にも用いられます。同じ方向に平行線を何本も描くことで面の存在感を強調したり、方向を変えながら何本も線を重ねることで厚みを出したりと、さまざまな表現ができるのが特徴です。

古くは「テンペラ画」という、卵黄やカゼインといった動物性タンパク質で顔料を練って作った「テンペラ絵の具」で制作した絵画でよく用いられていました。テンペラ絵の具の性質上、テンペラ画のみでは諧調の成立が難しいのですが、絵の具で絵を描いた後にハッチングで加圧し、色調を調整させることで陰影や立体感を表現していました。

現在はデッサンからイラスト作成まで、幅広いジャンルの絵画にハッチングは用いられています。顔料をワックスや油で練り上げた棒状の絵の具を使用する「オイルパステル」という絵画では、陰影を与えたい部分にハッチングを取り入れることもあります。線の方向・長さ・濃さ・太さなどによって表情が変わり、幅広い表現を実現できる技法です。

ハッチングを用いた代表的な作品としては、ルネサンス期のドイツの画家であるアルブレヒト・デューラーが制作した『ヴェロニカ』が挙げられます。ヴェロニカはカトリック教会・正教会における聖人で、ゴルゴダの丘へ向かうキリストに、汗を拭くよう自身のヴェールを差し出したというエピソードがあります。線の強弱を付けたり、何層も線を重ねたりすることで、立体的な表現を実現しています。