バドンヴィレ焼きとは、フランスのバドンヴィレという町で作られていた焼き物のことです。1898年に、テオフィン・フェナルという人物によって工場が建てられたのが始まりとされています。当時の作品は単色で銅板の写し絵のような絵付けを施しているのが特徴で、「FT」という刻印が刻まれました。
テオフィンはもともとバドンヴィレの隣にあるペクソンヌという町で焼き物工場を経営していましたが、家族との関係が悪化したのをきっかけに、拠点をバドンヴィレに移しました。近代的な考え方を持っており、自身の工場で働く職人には現代でいう保険のようなシステムを用意。バドンヴィレで開窯した後、瞬く間に300人もの労働者を雇う一大産地にまで成長しました。
20世紀にはエアブラシを用いた装飾技法で彩色の際に複数の色を取り入れるようになり、テオフィンの息子エドゥアードが経営を引き継いだ後もバドンヴィレ焼きはさらに発展。衛生食器の「アール・ヌーヴォー」や、74ピースの食器セット「シャンパーニュ」などが登場しました。第二次世界大戦の間は事業規模を縮小しましたが、戦後は再興し、1950年にはフランスで生産される焼き物の30%を作っていたとされています。
1963年にリュネヴィル・サン=クレモン窯、1980年にFSDVグループと統合・提携しながら生産活動を行っていましたが、1990年にサン=クレモン窯のみを残して生産を終了。2006年にサン=クレモン窯を含むいくつかの窯が合わさった「Faïence et crystal de France」グループができ、現在もバドンヴィレ焼きを受け継いでいます。