ファット・オーバー・リーンとは、油絵の技法のことです。英語の「fat(脂肪)」「over(~の上に)」「lean(痩せた)」を組み合わせた言葉で、油分が少ない層の上に、油分が多い層を重ねることを意味しています。絵の具を重ねて描き込むにつれて、油分を増やしていくのが特徴です。
ファット・オーバー・リーンの下の層では、ホワイトスピリットやディスティルド・テレピンのような溶剤を混ぜ、油分を減らして速乾性を高めた絵の具を用います。そして上の層になるほど溶剤の量を減らし、代わりにリンシードオイルやポピーオイルといった油分を加え、柔軟性を持たせた絵の具を使用します。
ファット・オーバー・リーンの技法を用いることで、絵の耐久性を向上させたり、艶を出したりできます。油分が多い絵の具の上に、さらに油分を含む絵の具を乗せると、絵の具が滑って上の層は剥離しやすくなります。そこで油分が少ない絵の具の上に、油分を豊富に含む絵の具を載せることで、上の層の絵の具が剥がれ落ちにくくなるのです。
また、絵の具の油分が豊富だと艶が増すため、絵画を華やかに表現したいときにも活用できます。使用する絵の具の種類によっても油分の量が異なり、たとえば鉛白の場合は乾燥に時間がかかるため、油分を多く含ませるのが一般的です。絵の具を重ねるほど油分が多くなるため、制作を進めるにつれて少しずつ乾燥に要する時間が長くなるのも、ファット・オーバー・リーンの特色と言えるでしょう。

