ヘレンドとは、1826年にハンガリーのヘレンド村で創設した陶磁器のブランドです。ハンガリーの貴族から莫大な支援を受け、1842年には王室御用達の製作所にまで成長。1851年にロンドン、1867年にパリで開催された万国博覧会では、それぞれの国の王室がヘレンドの陶磁器を購入し、王宮やセレブの人たちからの注目を集めました。

ヘレンドの特徴の1つに、開窯以来ずっと「マスター制度」を守り続けていることが挙げられます。マスター制度は15世紀にドイツで生まれた、技術力に基づいて「マスター」の資格を与える制度です。産業化の波により機械化が進んだ結果マスターの存在は要らなくなり、長年培われてきた職人の技は失われてしまいました。しかしヘレンドでは190年以上マスター制度を守ることで、伝統的かつ高度な技術を現在まで伝えています。

ヘレンドの魅力は、造形の美しさと、絵付けの繊細さです。陶磁器の形を造る際はろくろを回して形を整えるだけでなく、表面に透かし彫りを施すこともあります。後から細いひも状にした粘土をレースのようにあしらったり、指先サイズの小さな花を取り付けたりした作品もあり、観賞用としても使用することが可能です。

絵付けは東洋画、西洋風の花、果実、小鳥の写実、細密画の5つのカテゴリーに大きく分類されています。ペンで細かく下絵を描いた上から、花びらや鳥の羽に1つ1つ色を入れていく作業は、気が遠くなるほど緻密です。マスターが絵付けを担当した作品は、カップや皿の裏側にサインが記入されています。