リノカット

リノカットとは、リノリウムを版材として使用した版画技法です。リノリウムは亜麻仁油に樹脂やコルクなどを混ぜ、布に塗布して固めた素材で、床材として使われることもあります。リノリウムは小木材よりも材質が柔らかく、彫刻刀で彫り進めやすいのが特徴。木目による制限もないため、縦横無尽に好きな絵柄を掘ることができます。一方で耐久性に関しては木材よりも一歩劣り、細かく彫りすぎると破損しやすいため、繊細な表現にはあまり向いていません。

リノカットは版画技法のなかでも凸版技法に該当し、インクを付着させたい部分を残しながら版板を彫り進めます。19世紀後半のイギリスでリノリウムを発明し、20世紀初頭にリノカットが美術ジャンルの1つとして登場しました。1960年代末以降は南アフリカでもリノカットが流行し、白と黒のコントラストを活用した作品が多数登場。南アフリカ生まれの芸術家で詩人のヴァプコ・イェンスマも、リノカットの作品を制作した人物の1人です。

リノカットの制作に力を入れていた主な芸術家として挙げられるのが、パブロ・ピカソです。ピカソは80歳ごろの晩年になってから、リノカットの制作を開始しました。リノカットを印刷するときは、薄い色から濃い色へと刷り重ねていくのが一般的。しかしピカソは慣例にとらわれず、一度紙を黒く刷り上げてから版板に絵柄を彫り、次は白いインクで印刷するなど、自由な発想をもって作品を制作しました。ピカソのリノカットの作品例としては、『ピカドールと闘牛士』や『花飾りの帽子の女性』などが挙げられます。