一位一刀彫

一位一刀彫(いちいいっとうぼり)とは、岐阜県の飛騨地方で生産されている木工芸品です。イチイの木を材料に、装飾や着色を施さず、彫刻刀やノミで彫り上げて制作されます。完成した作品は木目がそのまま見えており、次第に茶褐色になり独特の艶感が出てくるのが特徴です。伝統的なものだと、主に根付・茶道具・置物・面が作られています。

一位一刀彫の始まりは江戸時代末期です。もともとは根付の彫刻師であった、松田亮長が確立しました。一説によると、厚い着色を施された奈良人形を見て、着の木目の美しさや彫刻刀で彫った跡が活かされていないのを残念に思い、独自に研究を重ねて一位一刀彫を生み出したそうです。

イチイの木を選んだ理由は、木目の美しさ・色・艶・彫りやすさなどの条件が整っていたから。イチイの品質の高さは、約800年前の天皇即位の際、イチイで作った笏を献上したところほかのものより質が優れていたため、「正一位」という最高位の位を賜った逸話からも伺えます。一口にイチイといっても内側は赤みがかった「赤太」、外側は白みがかった「白太」と呼ばれており、使う部分によって色味が異なり、作品の雰囲気も変化するのが特色です。

着色を施さないため、一位一刀彫において素材となる木材選びはとても重要。素材を選んだら適当な大きさに切り出して、彫り進めていきます。最後に白ローをかけて乾いた布で磨き、木材の耐久性を上げ、油分を引き出して完成です。昭和50年(1975)に通商産業省の伝統的工芸品に、平成18年(2008)には地域ブランドに登録されました。