墨流し

墨流しとは、古くから日本にあるマーブリングとよく似た技法のことです。平安時代には紙の染色に用いていたと考えられており、墨流しによる複雑な模様を写した紙は、書画の料紙として活用されていました。代表的な作品例は、京都の西本願寺が所有している『西本願寺本三十六人家集』。「躬恒集」では、灰色やだいだい色へとグラデーションしながらマーブル模様を描いている料紙を使用しています。

一般的な墨流しの手順は、大きく3段階に分けることが可能です。まずはバットや容器に水を張り、墨汁を流し入れます。次に松脂のような油脂分を含ませた筆の先端を水面に浸け、墨と油を反発させます。墨と油の反発を何度も発生させて、複雑なマーブル模様ができたら和紙を浸し、模様を写し取って完成です。マーブル模様を和紙に写し取る際は、紙面と水面の間に空気が入って模様が崩れないよう、注意を払うことが求められます。

江戸時代になると、墨の代わりに紅や藍を使った墨流しも行われるようになりました。木目や雲などの模様を描いた紙は、千代紙や家具の内張りの用紙として使われるようになります。その後、墨流しの模様を布に写す技術も登場。長襦袢のような衣類、風呂敷をはじめとした日用品、茶道具の袱紗など、様々な製品が作られました。現在は、スカーフやネクタイの生産に墨流しを取り入れることもあります。墨流しの製品の名産地は福井県越前市で、平成12年3月には伝統的な工芸技術として、福井県指定の無形文化財に登録されました。