螺鈿

螺鈿(らでん)とは、夜光貝や鮑の貝殻を文様の形に切り抜き、漆器に張り付けたり木地にはめ込んだりする装飾技法です。中国・日本・琉球・朝鮮半島といった東アジア地域の工芸作品に用いられます。日本には奈良時代に、唐から螺鈿の作品や技法が持ち込まれました。正倉院宝物にも、『螺鈿紫檀五絃琵琶』や『螺鈿紫檀阮咸』など、螺鈿を用いた楽器が含まれています。

平安時代になると螺鈿は漆工芸の装飾技法として、蒔絵と併用されるようになります。代表例として挙げられるのは、東京国立博物館所蔵の『片輪車螺鈿蒔絵手箱』です。水の流れと水に浸かった車輪は蒔絵と螺鈿の技法を交えて表現しています。

鎌倉時代には机や硯箱といった調度品だけでなく、馬具である鞍の装飾にも螺鈿を取り入れた作品が出現しました。同時代に作られた『時雨螺鈿鞍』は国宝に登録されています。安土桃山時代になるとヨーロッパとの交易の影響で螺鈿産業は大きく発達し、「南蛮漆器」と呼ばれる作品群も生まれました。

琉球では15世紀ごろから漆器の制作が本格的に始まります。もともと螺鈿に使う夜光貝などの貝殻は日本や中国との交易品として輸出していたのですが、王府への献上品や外交用の作品を統括する貝摺奉行所の体制が強化されると、琉球国内でも制作するようになりました。薩摩(現在の鹿児島県)や中国の職人との技術交流も行われ、雲龍を取り入れたり、朱色と黒色のコントラストを活かしたりと、独自の作風が発達しました。