識箱

識箱(しきばこ)とは、鑑定人が箱書きをした箱のことです。美術品に識箱が付いていると、共箱と同様に箱に収めてある作品は作者本人が作ったものである証明になります。また有名作家の作品でなくても、識箱が付属していれば優れた品質だと示すことが可能です。箱には制作者の氏名と作品名のほか、鑑定を担当した人物の氏名も書き記す場合があります。

箱に使用する木材は、制作者本人が署名捺印をした共箱と同様に、現在は桐が中心です。桐の特徴は、気密性に優れており箱の中に収納している作品が空気や湿気に触れるのを防げるところ。加えて虫が嫌がる臭いタンニンを発するため、虫よけにも効果が期待できます。

また箱に使用している木材の種類を見分けられると、いつの時代に作られたものなのか特定しやすくなります。江戸時代中期ごろを境に、箱に使用する主流の木材が杉から桐へと変化しているのです。杉材の箱だと江戸時代中期以前、桐材の箱だと江戸時代中期以降の作品と推定できます。

識箱を制作するタイミングは、有名な作家の作品ではないけれど大切に保管したくなったときや、もともと付属していた共箱を紛失してしまったときなど様々です。識箱に記される書は作家本人のものではないため、共箱と比べるといくらか価値が劣ることは留意しておきましょう。

しかしプロの鑑定士が鑑定して作品名や作家名を記しているのですから、識箱の情報は真贋の判断の際に重宝します。共箱ではないからと雑に扱ったり処分したりせず、作品と同じくらい大切に扱ってください。