絵画を売却しようとしたとき、「これ、本物なのだろうか」「贋作だったらどうしよう」と不安になることは珍しくありません。特に、相続や譲渡で手元に来た作品、購入経路がはっきりしない作品、サインだけが手がかりの作品では、その不安が強くなりがちです。こうした不安は、作品を疑うというより、判断材料が不足していることから生まれることが多いものです。
結論から言えば、真贋の不安がある場合でも、相談は可能です。ただし、ここで大切なのは「真贋を断定してもらうこと」だけを目的にしないことです。実務では、作品の情報や来歴、資料、状態などを総合して、どのように確認を進めるべきかを整理し、次の行動を決めていきます。この記事では、真贋の相談で実際にどのような点が確認されるのか、そして不安を増やさないために避けるべき行動や、相談をスムーズにする準備を丁寧に解説します。
まず前提|「査定」と「鑑定」は同じではない
真贋に関する相談では、この違いを理解しておくと安心です。査定は、作品の市場性や状態、資料などを踏まえて価格や取扱いの方向性を判断することです。一方で鑑定は、真作かどうかを専門機関や所定の手続きで確認する行為を指すことがあります。実務の現場では、まず査定の段階で「現時点で分かること」を整理し、必要があれば鑑定など追加の確認手段を検討する、という流れになることが多いです。
つまり、最初から「白黒を断定してほしい」と構えてしまうよりも、「今ある情報で何が言えそうか」「次に何を確認すべきか」を整理する姿勢の方が、結果的に不安が減り、判断もしやすくなります。
サインだけで真贋は決められない理由
真贋不安の相談でよくあるのが、「サインがあるから本物だと思う」「サインが似ているから贋作かもしれない」という考え方です。しかし、サインは重要な手がかりではあるものの、それだけで真贋を決めることは難しいことがあります。
サインだけでは判断が難しい理由は、次のように複数あります。
■ サインは作品によって書き方が変わることがある
■ 文字が崩れていたり、擦れて読みにくい場合がある
■ 作品の制作年代や状況により表記が異なることがある
■ サインがあっても、作品全体の条件と整合しない場合がある
そのため、真贋の相談ではサインを入口にしつつも、作品全体の情報、裏面の情報、来歴資料などを重ねて見ていくことが重要になります。
真贋の相談で確認されるポイント①|作品そのものの情報
まず確認されるのは、作品そのものの情報です。これは真贋の断定のためだけでなく、作品が市場でどう扱われるかを把握するためにも必要です。
■ 作品のジャンル(油絵、水彩、日本画、版画、現代アートなど)
■ サイズ(大まかでよい)
■ 技法や支持体(キャンバス、紙、板など)
■ 署名(サイン)や落款の位置と状態
■ 画面の特徴(作風、筆致、構図など)
ここで大切なのは、作品の良し悪しを自分で断定しないことです。できる範囲で事実情報を揃え、写真で共有することが、確認の第一歩になります。
真贋の相談で確認されるポイント②|来歴(プロヴナンス)
真贋の相談で大きな意味を持つのが来歴です。来歴とは、その作品がどのような経緯で所有されてきたか、どこから来た作品かを示す情報です。来歴が明確であるほど、作品の信頼性が補強され、説明もしやすくなります。
■ 購入先(画廊、百貨店、作家本人、知人経由など)
■ 購入時期の目安
■ 相続・譲渡の場合は経緯(誰がいつ所有していたか)
■ 作品が飾られていた場所や保管状況
来歴がはっきりしない場合でも問題はありません。重要なのは、分からないことを無理に推測しないことです。「不明」として整理した方が、確認の方向性が明確になります。
真贋の相談で確認されるポイント③|資料・付属品の有無
真贋の判断材料として、資料や付属品が重要になる場合があります。ここは見落とされやすいので、整理しておくと相談がスムーズになります。
■ 購入時の領収書・請求書
■ 展覧会図録、個展DM、カタログ
■ 作品証明書(COA)
■ 箱書き、共箱、黄袋(日本画・掛軸など)
■ 裏面のラベルやシール(画廊・展覧会・管理番号など)
これらがあると、作品の位置づけが説明しやすくなり、不安の整理にも役立ちます。逆に資料がない場合でも、即座に価値がなくなるわけではありません。ただ、確認のために必要な情報を追加で探す必要が出ることがあります。
真贋の相談で確認されるポイント④|裏面情報
裏面は、真贋不安の相談で特に重要なことがあります。表面からは分からない情報が残っていることが多く、来歴や流通経路の手がかりになるためです。
■ 裏板のラベル、シール、番号
■ 画廊名や展覧会名が記載されたもの
■ 鉛筆書きの作品名や日付、作家名
■ 保管や輸送に関する情報(注意書きなど)
裏面は、無理に分解して確認するのではなく、まずは見える範囲で写真を撮って共有するのが安全です。
真贋の相談で確認されるポイント⑤|状態(コンディション)
状態は「本物かどうか」と直接関係がないように思われがちですが、実務では重要です。なぜなら、状態が悪いと確認が難しくなったり、修復が必要になったりして、取扱いの方向性に影響することがあるからです。
■ シミ、ヤケ、カビ
■ 絵具の剥落、ひび割れ
■ 破れ、欠損、角の傷み
■ 額装の破損(ガラス割れなど)
状態が気になるときほど、自己判断で掃除や修復をしないことが重要です。手を加えると、作品表面の情報が変わり、確認が難しくなることがあります。
やってはいけない自己検証|不安を増やしやすい行動
真贋が不安なときほど、ネットや動画を見て自己判断で検証したくなります。しかし、次の行動は避けた方が安全です。作品を傷めたり、状況を複雑にしたりして、結果的に不安が増える可能性があります。
■ 作品表面を拭く、薬剤を使う
■ 額装を無理に開ける、裏板を剥がす
■ テープや接着剤で補修する
■ 強い光を当てて無理に撮影する(熱や紫外線の影響)
■ サインをなぞる、上から書き足す
■ SNSや掲示板で断定を求める(情報の真偽が混ざりやすい)
やるべきことは“検証”ではなく、“情報整理”です。情報を壊さず残すことが、確認の精度を上げます。
相談をスムーズにする準備|写真と情報の揃え方
真贋不安の相談では、写真の揃え方が特に重要です。判断材料が限られるからこそ、基本セットを揃えるだけで確認が進みやすくなります。
■ 作品全体(正面)
■ サイン・落款(ピントが合ったアップを複数枚)
■ 裏面全体(額裏も含む)
■ 裏面ラベル・シール・書き込み(アップ)
■ 気になる状態(シミや剥落など)
■ 付属資料(箱書き、証明書、領収書、図録など)の写真
文章で添えると良い情報は、分かる範囲で十分です。
■ 入手経緯(購入/相続/譲渡/不明)
■ いつ頃から手元にあるか
■ 購入先が分かるか(不明でもよい)
■ 付属品の有無
■ 不安点(「サインが読めない」「裏にラベルがある」など)
不安を減らす相談の進め方|段階的に確認する
真贋の不安は、いきなり結論を求めるほど強くなりやすい傾向があります。実務では、段階的に確認していく方が納得感が高まりやすいです。
■ 写真と情報で「現時点で分かること」を整理する
■ 追加で必要な情報があれば、無理のない範囲で集める
■ 必要に応じて、実物確認の方法(出張・持込・宅配など)を検討する
■ 価格だけでなく、取扱いの方向性や注意点も確認する
この進め方を取ると、「何をすればよいか」が明確になり、漠然とした不安が減っていきます。
真贋の不安は「情報を揃える」ことで落ち着いて判断できる
贋作が不安な絵画でも、相談は可能です。真贋の確認はサインだけで決まるものではなく、作品情報、来歴、資料、裏面情報、状態などを重ねて整理することで、次の行動が見えてきます。自己判断で掃除や分解をすると状況が悪化することがあるため、まずは現状のまま写真と事実情報を揃え、段階的に相談を進めることが、後悔の少ない判断につながります。

