スリップウェアとは、器の表面を「スリップ」と呼ばれる化粧土で装飾する陶器の技法のことです。一般的には17~19世紀のイギリスで、庶民の普段使いの食器として用いられていたものを指します。泥の流動性を活かした躍動感のある模様と、素朴で温かみのある質感が、スリップウェアの魅力です。
イギリスのスリップウェアは、もともとは農民が自分たちの生活のために焼いていたものでした。スポイトのような道具から泥を垂らし、線や点(ドット)を描く「スリップ・トレーリング」や、数色の泥を流して大理石のようなマーブル模様を作る「マーブリング」など、さまざまな技法があります。焼成温度が比較的低いため、ぽってりと厚手で、手に馴染む柔らかい風合いが特徴です。
17世紀になると、トーマス・トフトをはじめとした名工によって芸術的な大皿も作られるようになりました。しかし産業革命以降は、より白くて繊細な装飾を施した量産品が普及し、19世紀末には衰退します。
消滅の危機に瀕したイギリスのスリップウェアに注目したのが、日本の民芸運動の父とも言われる柳宗悦です。柳は大正時代の日本でイギリス産のスリップウェアを目にし、「健康的な美しさ」に深く感銘を受けます。同行していた濱田庄司とイギリス人陶芸家のバーナード・リーチは、イギリスの古い窯を訪ねてその技法を再現・研究し、日本に持ち帰りました。
バーナード・リーチと濱田庄司が持ち帰ったスリップウェアの技法は、島根県の湯町窯などを通じて日本各地の職人に伝わり、日本の食卓に合う「和のスリップウェア」として独自の進化を遂げました。現在も、多くの現代作家がスリップウェアの伝統を継承しています。

