絵画の価格をインターネットで調べると、オークションの落札結果が見つかることがあります。
手元の作品と同じ作家の絵画が100万円で落札されていれば、「自分の作品も100万円程度で買い取ってもらえるのでは」と考えるかもしれません。
しかし、オークションの落札価格と、買取店が提示する買取価格は同じではありません。
オークションの落札価格は、競りで最も高い金額を提示した人の入札価格です。一方、買取価格は、買取店が作品を仕入れ、その後の保管や販売にかかる費用とリスクを負うことを前提に提示する金額です。
また、オークションでは、落札価格から手数料などを差し引いた金額が出品者の受取額になります。買い手も、落札価格とは別に落札手数料などを支払うのが一般的です。
落札価格だけを見て比較するのではなく、「売り手が最終的に受け取る金額」と「買い手が実際に支払う総額」を分けて考える必要があります。
オークションの落札価格と買取価格が異なる理由を、手数料や売却方法の違いを含めて分かりやすく解説します。
オークションの「落札価格」とは
美術品オークションでは、作品ごとに入札が行われ、最も高い金額を提示した人が落札者になります。
オークショニアがハンマーを打った時点の入札価格を、一般に「落札価格」または「ハンマープライス」と呼びます。
例えば、競りが次のように進んだとします。
- 50万円から競りが始まる
- 複数の購入希望者が入札する
- 最も高い入札額が100万円になる
- 100万円でハンマーが打たれる
この場合、落札価格は100万円です。
ただし、落札者が実際に支払う金額は100万円だけとは限りません。通常は、落札価格に落札手数料や、その手数料にかかる消費税などが加算されます。
買い手が支払う金額は落札価格より高い
オークションで作品を購入する人は、落札価格に加えて、オークション会社が定める落札手数料を支払うのが一般的です。
購入時に必要となる可能性がある費用には、次のようなものがあります。
- 落札価格
- 落札手数料
- 手数料にかかる消費税
- オンライン入札などの追加手数料
- 作品の梱包費
- 配送費
- 保険料
- 海外から購入する場合の関税や輸入費用
- 支払いに関する送金手数料
つまり、100万円で落札された作品でも、買い手の支払総額は100万円を上回ることがあります。
オークション会社によって手数料率や計算方法は異なります。落札価格に手数料を含めて発表する会社もあれば、ハンマープライスのみを公表する会社もあります。
落札結果を見るときは、「手数料込み」か「手数料別」かを確認することが重要です。
売り手が受け取る金額は落札価格より低い
作品を出品した人も、落札価格の全額を受け取れるとは限りません。
一般的には、落札価格から販売委託手数料や各種費用が差し引かれます。
出品者に発生する可能性がある費用には、次のようなものがあります。
- 販売委託手数料
- カタログ掲載料
- 作品撮影料
- 保管料
- 保険料
- 運搬費
- 梱包費
- 鑑定料
- 鑑定書の発行料
- 額装や修復にかかる費用
- 不落札時の手数料
- 返送費
すべての費用が必ず発生するわけではありません。オークション会社、作品の価格、出品方法、契約内容によって異なります。
そのため、落札価格が100万円でも、出品者の受取額は100万円より少なくなります。
落札価格・支払総額・受取額の違い
オークションの価格を見る際は、次の3つを分けて考える必要があります。
落札価格
競りでハンマーが打たれた金額です。ハンマープライスとも呼ばれます。
買い手の支払総額
落札価格に、落札手数料、手数料に対する消費税、配送費などを加えた金額です。
売り手の受取額
落札価格から、販売委託手数料、カタログ掲載料、鑑定料、運搬費などを差し引いた金額です。
価格の関係は、一般に次のようになります。
買い手の支払総額 > 落札価格 > 売り手の受取額
落札結果として100万円と表示されていても、買い手は100万円以上を支払い、売り手は100万円未満を受け取る可能性があります。
手数料を含めた計算例
ここでは、仕組みを理解するための仮の条件で計算します。
実際の料率や費用はオークション会社によって異なるため、出品前に最新の規約と見積書を確認してください。
仮の条件
- 落札価格:100万円
- 買い手側の手数料等:16万5,000円
- 売り手側の販売委託手数料等:11万円
- カタログ掲載料:1万円
- 運搬・保険などの費用:2万円
買い手の支払総額
100万円+16万5,000円=116万5,000円
このほか、配送費などが必要になる場合があります。
売り手の受取額
100万円-11万円-1万円-2万円=86万円
この例では、落札価格は100万円ですが、出品者が受け取る金額は86万円です。
実際には、鑑定料、修復費、不落札手数料などが追加される場合があります。反対に、契約内容によっては一部の費用が不要になることもあります。
一例として、シンワオークションの公式案内では、落札者が支払う金額と、出品者にかかる販売委託手数料・カタログ掲載料などが、それぞれ別に示されています。料率や条件は変更される可能性があるため、利用時には必ず各社の最新規約を確認してください。
買取価格はどのように決まるのか
買取では、買取店が作品を直接購入します。
査定額に依頼者が合意すれば売買が成立し、通常は提示された買取価格が受取額の基準になります。
買取店は、買い取った後に次のような費用とリスクを負います。
- 作品の調査
- 真贋の確認
- 鑑定書の取得
- 保管
- 運搬
- 保険
- 清掃や修復
- 額装の調整
- 写真撮影
- 広告や販売
- 売れるまでの期間
- 市場価格が変動する可能性
- 売れ残る可能性
そのため、買取価格は将来の販売価格やオークション落札価格より低く提示されることがあります。
これは買取店が不当に価格を下げているという意味ではありません。作品を先に購入し、売れるまでの費用とリスクを引き受けるという、取引方法の違いによるものです。
オークションは高く売れる可能性がある
オークションには、複数の購入希望者が競り合うことで、予想を上回る価格になる可能性があります。
特に、次のような作品は競りが成立しやすい傾向があります。
- 国内外で需要のある作家
- 市場への出品が少ない作品
- 作家の代表的な画題
- 重要な制作年代の作品
- 展覧会歴や来歴が明確な作品
- 保存状態が良好な作品
- 鑑定書や証明書が整っている作品
- 複数の収集家が探している作品
購入希望者が二人以上いて、どちらも強く作品を求めていれば、エスティメートの上限を超えて価格が上昇することがあります。
これが、競り形式の大きな特徴です。
必ず落札されるとは限らない
オークションへ出品しても、必ず買い手が見つかるわけではありません。
入札が最低売却価格に届かなければ、不落札になることがあります。
不落札の場合には、次のような負担が発生する可能性があります。
- 不落札手数料
- カタログ掲載料
- 鑑定料
- 運搬費
- 保管料
- 返送費
- 出品から返却までの時間
実際に、オークション会社によっては、不落札の場合にも所定の手数料や、すでに発生した鑑定費用などが請求されることがあります。
出品前には、落札された場合の費用だけでなく、不落札になった場合の費用も確認する必要があります。
エスティメートは売却を保証する価格ではない
オークションカタログには、「50万円~80万円」のような予想落札価格が掲載されることがあります。これを「エスティメート」と呼びます。
エスティメートは、過去の取引、作品の内容、保存状態、市場需要などをもとに設定される予想価格です。
しかし、次の金額を保証するものではありません。
- 必ずその範囲で落札される
- 上限価格で売れる
- 出品者がその金額を受け取れる
- 買取店が同じ金額で買い取る
競りの状況によっては、エスティメートを上回ることもあれば、入札が集まらず不落札になることもあります。
エスティメートと買取価格を比較する場合も、手数料や売却までの期間を含めて考える必要があります。
最低売却価格とは
最低売却価格とは、出品者が「この金額未満では売らない」と設定する金額です。リザーブ価格と呼ばれることもあります。
競りが最低売却価格に届かなければ、原則として作品は落札されません。
最低売却価格を高く設定すれば、安く売却されることを防げます。しかし、市場の評価より高く設定すると、不落札になる可能性も高くなります。
最低売却価格を決める際は、希望する金額だけでなく、同じ作家の近年の取引状況、作品の状態、画題、サイズなどを考慮します。
また、最低売却価格の設定方法や変更条件は、オークション会社によって異なります。出品契約を結ぶ前に確認してください。
落札結果は同じ条件で比較する
手元の絵画と同じ作家の落札結果を見つけても、作品の条件が違えば、その価格をそのまま参考にすることはできません。
比較するときは、次の点を確認します。
- 同じ作家か
- 真贋を確認できる作品か
- 油彩、日本画、版画など技法が同じか
- 制作年代が近いか
- 画題やモチーフが似ているか
- 作品のサイズが近いか
- 保存状態が同程度か
- 鑑定書や証明書があるか
- 展覧会歴や来歴があるか
- 取引された時期が近いか
- 国内と海外のどちらで売れたか
- 手数料込みか、手数料別か
同じ作家の作品でも、油彩画と版画では価格が異なります。代表的な画題と珍しい習作でも、市場での需要は変わります。
一件の高額落札だけを基準にせず、複数の類似作品を確認することが大切です。
高額落札だけが目立ちやすい
オークションのニュースや広告では、予想価格を大きく上回った作品や、記録的な価格で落札された作品が紹介されることがあります。
しかし、そのような事例は、すべての作品に当てはまるわけではありません。
市場に出た作品の中には、予想範囲内で落札されたもの、最低売却価格に届かなかったもの、入札がなく不落札になったものもあります。
高額落札の事例を見るときは、その作品がなぜ評価されたのかを確認する必要があります。
- 希少な作品だった
- 来歴が優れていた
- 代表的な制作年代だった
- 著名なコレクションから出品された
- 複数の購入希望者が競り合った
- 海外市場で需要が高まっていた
手元の作品と条件が異なる場合、高額落札の結果だけを当てはめることはできません。
買取のメリット
買取は、査定額に合意すれば、比較的短期間で売却できます。
主なメリットは次のとおりです。
- 売却前に受取額を確認できる
- 不落札のリスクがない
- 売却までの期間が短い
- 出品準備の負担が少ない
- カタログ掲載を待つ必要がない
- 作品の保管を長く続けなくてよい
- 大型作品の搬出を相談できる
- 複数の作品をまとめて売却しやすい
ただし、買取店によって得意分野や販売経路が異なるため、査定額に差が出ることがあります。
作品の分野や作家を適切に評価できる専門店へ相談することが重要です。
オークションのメリット
オークションは、売却までに時間と費用がかかる可能性がある一方、競りによって価格が上昇する可能性があります。
主なメリットは次のとおりです。
- 複数の購入希望者に紹介できる
- 競りによって価格が上がる可能性がある
- 国内外の収集家へ作品を届けられる
- 公開された市場で価格が決まる
- 希少な作品の需要を確認できる
- 落札結果が取引記録として残る場合がある
オークションが向いているかどうかは、作品の市場性、希少性、予想価格、売却を急ぐかどうかによって異なります。
買取とオークションのどちらを選ぶか
買取とオークションには、それぞれメリットと注意点があります。
買取が向いているケース
- 早く売却したい
- 受取額を事前に確定したい
- 不落札のリスクを避けたい
- 出品手続きを簡単にしたい
- 大量の美術品をまとめて整理したい
- 保管や搬出を早く相談したい
オークションが向いているケース
- 市場で需要の高い作品を持っている
- 希少性のある作品である
- 売却まで時間をかけられる
- 競りによる価格上昇を期待したい
- 手数料や不落札のリスクを理解している
- 鑑定書や来歴資料が整っている
価格だけでなく、売却までの期間、手続き、費用、結果の確実性も含めて選ぶことが大切です。
比較するなら「手取り額」で考える
オークションの落札価格と買取価格を比較するとき、最も重要なのは、表示された金額ではなく、最終的な手取り額です。
例えば、次のように比較します。
オークション
予想される落札価格から、販売委託手数料、カタログ掲載料、鑑定料、運搬費、保険料などを差し引きます。
さらに、不落札になる可能性や、売却までにかかる期間も考慮します。
買取
提示された買取価格から、別途差し引かれる費用があるかを確認します。
出張費、査定料、運搬費、キャンセル料などの条件も事前に確認しましょう。
「オークションで100万円の可能性」と「買取で80万円の提示」を比較する場合、100万円と80万円をそのまま比べるのではありません。
オークションの手数料等を差し引いた手取り額と、不落札の可能性、入金までの期間を含めて判断する必要があります。
出品前に確認したい質問
オークションへの出品を検討する場合は、契約前に次の点を確認してください。
- 予想落札価格はいくらか
- 最低売却価格はいくらに設定するか
- 販売委託手数料はいくらか
- カタログ掲載料はいくらか
- 鑑定料や運搬費は必要か
- 保険料や保管料はかかるか
- 不落札の場合に費用はかかるか
- 作品の返送費は誰が負担するか
- 落札後、いつ入金されるか
- キャンセルできる時期と条件は何か
- 落札価格は手数料込みで公表されるか
- 売り手の手取り見込額はいくらか
口頭の説明だけでなく、契約書や見積書で確認すると安心です。
落札価格と買取価格は仕組みが異なる
オークションの落札価格と買取価格が違うのは、価格が決まる仕組みと、費用やリスクを負う人が異なるためです。
オークションでは、複数の購入希望者が競り合うことで価格が上昇する可能性があります。しかし、手数料や諸費用がかかり、不落札になる可能性もあります。
買取では、買取店が作品を直接購入し、その後の保管、修復、販売、市場変動などのリスクを負います。そのため、将来の販売価格より低い査定額になることがありますが、受取額や売却時期を事前に確認しやすいという特徴があります。
どちらが有利かは、作品の作家、技法、希少性、保存状態、市場需要、売却を急ぐかどうかによって異なります。
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