絵画にシミやヤケ、ひび割れがあると、「状態が悪いから売れないのでは」と心配される方は少なくありません。
しかし、傷みのある絵画でも、作家、作品の希少性、制作年代、技法、画題などによっては、買取の対象になります。
査定では、単に「傷があるか」だけを見るのではありません。どの部分に、どの程度の傷みがあり、今後進行する可能性があるか、修復が可能かなどを確認します。
また、油彩画、日本画、水彩画、版画では、同じように見えるシミやひび割れでも、査定への影響が異なります。
シミ・ヤケ・ひび割れがある絵画の査定ポイントと、売却前にやってはいけない手入れについて、状態別に解説します。
状態が悪い絵画でも売れる可能性はある
絵画に傷みがあるからといって、すぐに価値がなくなるわけではありません。
多少のシミやヤケがあっても、作家や作品によっては十分に査定できます。古い作品では、ある程度の経年変化が見られることも珍しくありません。
特に、次のような作品では、状態に問題があっても評価される可能性があります。
- 市場で需要のある作家の作品
- 流通数が少ない作品
- 作家の代表的な画題
- 重要な制作年代の作品
- 展覧会への出品歴がある作品
- 鑑定書や来歴資料が残っている作品
- 美術史的な意味を持つ作品
- 修復できる可能性がある作品
一方、修復費用が作品の市場価格を上回ると見込まれる場合や、損傷によって作品の重要な部分が失われている場合は、査定価格が低くなったり、買取が難しくなったりすることがあります。
査定では傷みの程度と場所を確認する
査定価格への影響は、傷みの種類だけでなく、範囲、深さ、発生している場所によって変わります。
例えば、額縁に隠れる余白部分の小さなシミと、人物の顔や署名部分にある大きなシミでは、作品の印象や資料性への影響が異なります。
査定では、主に次の点を確認します。
- 傷みの種類
- 傷みの範囲
- 作品の中心部分に影響しているか
- サインや落款に影響しているか
- 損傷が現在も進行しているか
- 過去に修復されているか
- 修復によって改善できるか
- 修復にどの程度の費用がかかるか
- 修復後も痕跡が残るか
同じ作家の同程度の作品でも、保存状態の違いによって査定価格に差が出ることがあります。
絵画に見られる「シミ」とは
シミは、紙、絹、キャンバスなどに現れる変色や斑点です。原因は一つではなく、湿気、水濡れ、カビ、ほこり、接着剤や裏打ち材料の変化など、さまざまな可能性があります。
見た目だけで原因を正確に判断することは難しいため、自己判断で薬品や水を使わないようにしてください。
査定では、シミについて次の点を確認します。
- 色や形
- 発生している範囲
- 本紙か表装か
- 作品の表面か裏面か
- 水濡れの跡があるか
- カビや湿気臭を伴っているか
- 絵具や紙の強度に影響しているか
- シミが広がっている可能性があるか
小さなシミであれば影響が限定的なこともありますが、画面全体に広がっている場合や、作品の主要部分を損なっている場合は、評価への影響が大きくなる可能性があります。
茶色い斑点「フォクシング」
紙に描かれた作品や版画、古い書類などには、茶色や赤褐色の小さな斑点が見られることがあります。一般に「フォクシング」と呼ばれる状態です。
水彩画、素描、版画、日本画など、紙を支持体とする作品で見られることがあります。
軽度で、作品の余白部分に限られている場合は、査定への影響が小さいこともあります。一方、画面全体に広がっている場合や、人物の顔、署名、重要な描写部分に重なっている場合は、評価に影響しやすくなります。
フォクシングに見えても、カビや別の変色である可能性があります。消しゴムでこすったり、漂白剤を使ったりせず、現在の状態のまま専門家へ見せることが大切です。
カビがある絵画の注意点
カビは、作品の見た目だけでなく、紙、布、絵具、接着剤などを傷める原因になります。高い湿度や温湿度の変化は、カビを含む美術品の損傷や劣化を進める要因になります。文化庁の美術工芸品修理資料でも、温湿度の変化や虫、カビなどが劣化を促進することが示されています。
白い粉のようなもの、黒や緑色の斑点、強い湿気臭がある場合は、カビの可能性があります。
ただし、表面にある白いものが、必ずしもカビとは限りません。油彩画では、材料の変化や表面の汚れが白く見える場合もあります。
カビが疑われるときは、次の行為を避けてください。
- 素手で触る
- 布やブラシでこする
- 掃除機で吸い取る
- アルコールや除菌剤を吹きかける
- 天日干しする
- ドライヤーで乾かす
- 室内で何度も広げる
カビの胞子が周囲へ広がったり、作品の表面を傷つけたりする可能性があります。ほかの作品から離し、無理に開封せず、写真を撮れる範囲で専門家へ相談してください。
「ヤケ」とはどのような状態か
ヤケとは、光や経年変化などによって、紙や絹、絵具の色が変化した状態を指します。
紙が黄色や茶色に変色する、画面の一部だけ色が薄くなる、額縁に隠れていた部分と見えていた部分で色が違うといった状態が代表的です。
ヤケには、主に次のような現れ方があります。
- 紙全体が黄色や茶色になる
- 作品の周囲だけ色が変わる
- 額縁の内側に沿って変色する
- 日光が当たった部分だけ退色する
- 一部の絵具やインクの色が薄くなる
- 裏面の材料の影響で変色する
軽度のヤケで、作品全体の鑑賞に大きな影響がなければ、査定価格への影響が限定的な場合もあります。
一方、色彩や描写が大きく失われている場合、画面の一部に強い色の差がある場合、紙や絹が弱くなっている場合は、慎重な評価になります。
日光による退色は元に戻せるとは限らない
長期間、直射日光や強い照明に当たっていた作品では、顔料、染料、インクなどが退色していることがあります。
退色した色を、清掃だけで元の状態へ戻すことはできません。また、元の色が分からない状態で絵具を塗り足すと、作品本来の表現を損なう可能性があります。
色が薄くなっているからといって、自分で絵具や色鉛筆を使って補ってはいけません。過去の加筆や補彩が査定時に確認されると、評価に影響することがあります。
油彩画の「ひび割れ」
油彩画の表面には、細かなひび割れが見られることがあります。これは絵具層や下地に生じる変化で、「クラック」や「クラクリュール」と呼ばれることがあります。
ひび割れがあるからといって、すべての油彩画が売れなくなるわけではありません。古い油彩画では、材料や経年変化によって細かなひび割れが生じていることがあります。
査定では、次のような点を確認します。
- ひび割れの細かさ
- 画面全体にあるか、一部だけか
- 絵具が浮いているか
- 絵具が剝がれ落ちているか
- キャンバスにたるみがあるか
- 木枠にゆがみがあるか
- 過去の修復部分にひび割れがあるか
- ひび割れが進行している可能性があるか
表面に安定した細かなひび割れが見られる場合と、絵具が浮いて今にも剝がれそうな場合では、緊急性も査定への影響も異なります。
絵具が浮いている場合は触らない
ひび割れた部分の周囲で絵具が盛り上がっている、端が反り返っている、額縁の内側に絵具の破片が落ちている場合は、絵具層が剝がれかけている可能性があります。
このような状態で画面に触れたり、作品を大きく動かしたりすると、絵具が落下するおそれがあります。
落ちた絵具の破片があれば、捨てずに保管してください。ただし、接着剤を使って自分で貼り戻してはいけません。
作品を動かす必要がある場合は、画面を上向きや下向きにせず、できるだけ振動を与えないように注意し、専門家へ相談してください。
キャンバスのたるみ・へこみ・破れ
油彩画では、絵具の状態だけでなく、キャンバスにも傷みが生じることがあります。
主な状態には、次のようなものがあります。
- キャンバスがたるんでいる
- 表面にへこみがある
- 木枠の跡が画面に出ている
- キャンバスに穴が開いている
- 刃物のようなもので裂けている
- 端の部分が木枠から外れている
- 過去に裏側から布が貼られている
小さなへこみや軽度のたるみであれば、影響が限定的なこともあります。一方、大きな破れが作品の中心部分にある場合や、描写が失われている場合は、査定価格に影響しやすくなります。
キャンバスの裏からへこみを押し戻したり、水分を与えて張り直そうとしたりすることは避けてください。
日本画に見られる剝落と亀裂
日本画では、岩絵具や胡粉などが使われている作品があります。保存環境や材料の変化によって、絵具が浮いたり、細かく剝がれたりすることがあります。
掛け軸の場合は、巻いたり広げたりする動作によって、折れや亀裂が生じることもあります。
査定では、次の点を確認します。
- 絵具が粉状に落ちていないか
- 胡粉などの白色部分に亀裂がないか
- 本紙に折れや破れがないか
- 絹地が弱くなっていないか
- 掛け軸を安全に広げられるか
- 表装が本紙を傷めていないか
- 過去に裏打ちや修復が行われているか
巻きが固い、広げると音がする、絵具が落ちるといった場合は、無理に掛け軸を開かないでください。箱と箱書きだけでも、査定相談を始められる場合があります。
水彩画・版画のシミと波打ち
水彩画、素描、版画などの紙作品は、湿気や水濡れの影響を受けやすい性質があります。
査定では、次のような状態を確認します。
- 紙のシミやヤケ
- 余白部分の変色
- 水濡れの跡
- 紙の波打ち
- カビや湿気臭
- 破れや折れ
- テープやのりの跡
- マットへの貼り付き
- インクや絵具の退色
- エディション番号やサインの状態
版画では、絵が刷られている部分だけでなく、余白も作品の一部として確認されます。余白を切り取ったり、シミのある部分だけを切り落としたりすると、評価を損なう可能性があります。
額縁の内側で紙が波打っていても、無理に取り出したり、重しを載せて伸ばしたりしないようにしましょう。
過去の修復は査定に影響するのか
修復歴があるからといって、必ず価値がなくなるわけではありません。
適切な材料と方法で専門家によって行われた修復であれば、作品を安定させ、鑑賞できる状態を保つために必要な処置と考えられます。
一方、家庭用の接着剤、粘着テープ、塗料などで補修されている場合は、作品に新たな損傷を与えている可能性があります。
査定では、修復について次の点を確認します。
- どこが修復されているか
- 修復の範囲
- 使用された材料
- 修復部分が変色していないか
- 補彩や加筆が広い範囲に及んでいないか
- 修復記録や領収書が残っているか
- 今後、再修復が必要か
過去に修復を依頼したことがある場合は、修復前後の写真、作業報告書、領収書なども一緒に提示してください。
売却前に修復した方が高く売れるのか
状態が悪い作品を見ると、「修復してきれいにしてから売った方が高くなる」と考えるかもしれません。
しかし、査定前に修復することが、必ずしも有利になるとは限りません。
専門的な修復には費用がかかります。修復費用をかけても、その金額以上に査定価格が上がるとは限りません。また、作品や材料に合わない修復を行うと、価値を損なう可能性があります。
まずは現状のまま査定を受け、次の点を確認してから判断することをおすすめします。
- 現在の状態でどの程度評価されるか
- 修復が必要な状態か
- 修復によって改善できるか
- 修復費用はいくらか
- 修復後に市場価値が上がる可能性があるか
- 買取店側で修復を手配できるか
作家や作品によっては、傷んだ状態のまま買い取り、専門家による修復を行ったうえで再販売できる場合があります。
査定前にやってはいけない手入れ
シミやヤケ、ひび割れがあっても、自分で目立たなくしようとしてはいけません。
特に、次の行為は避けてください。
- 水や洗剤で拭く
- アルコールや除菌剤を使う
- 消しゴムでシミをこする
- 漂白剤を使う
- 市販のニスを塗る
- 絵具や色鉛筆で色を補う
- 接着剤で絵具を貼り戻す
- テープで破れを補修する
- アイロンをかける
- ドライヤーや直射日光で乾かす
- 額縁や表装を無理に外す
手を加えたことで、元の状態や損傷の原因が分かりにくくなり、適切な修復が難しくなることがあります。
写真査定で撮影したい箇所
状態に問題がある絵画を写真で査定してもらう場合は、傷みを隠さず、分かりやすく撮影することが大切です。
次の写真を用意すると、確認が進みやすくなります。
- 額縁を含む作品全体
- 絵の部分全体
- サインや落款、印章
- シミやヤケがある部分
- ひび割れや剝落がある部分
- 斜めから撮影した作品表面
- 作品と額縁の裏面
- キャンバスや本紙の傷んだ部分
- 額縁や箱の状態
- 鑑定書や保証書などの付属資料
シミやひび割れの拡大写真だけでなく、作品全体のどの位置にあるかが分かる写真も必要です。
画像加工でシミや傷を消したり、実際より色を明るくしたりせず、現在の状態が分かる写真を送りましょう。
傷みがあっても価値が残る作品はある
シミ、ヤケ、ひび割れがあるからといって、絵画の価値がすべて失われるわけではありません。
査定では、作家、真贋、制作年代、画題、技法、希少性、来歴、市場需要とともに、傷みの種類、範囲、場所、修復の可能性などを確認します。
古い作品では、ある程度の経年変化が見られることもあります。大切なのは、状態が悪いという理由だけで処分したり、自分で掃除や修復を行ったりしないことです。
傷みを隠さず、作品全体と問題のある箇所の写真を用意し、現在の状態のまま専門家へ相談してください。
美術品・絵画買取センターでは、シミやヤケのある日本画・水彩画・版画、ひび割れや剝落のある油彩画、傷みのある掛け軸などについてもご相談を承ります。売れるか分からない作品でも、処分や修復を行う前に、まずは写真からお問い合わせください。
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